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Gran-desastre

日本語版の重大な誤り

日本で公開された本作品の劇場用フィルム及び日本版DVDの日本語字幕には重大な誤訳が存在する。主人公アラトリステが、恋人との「結婚を決意した」という解釈は明らかな誤りである。

誤訳の生まれた経緯
本作は、架空の剣士アラトリステが17世紀ヨーロッパの史実に基づく人々と関わり、やがて最後の戦場に赴くまでの20年間を描いた[[史劇]]である。アラトリステと恋人の女優マリアに、時の国王フェリペ4世が絡む恋物語も、作品全体を通して描かれる重要なエピソードである。

日本では、アラトリステが物語の中でマリアとの結婚を決意し、プロポーズのために高価な首飾りを買ったという解釈で字幕が制作された。これは、公開に先立ってマスコミに配布されたプレスシートの「マリアへの求婚を決意する」という文章からも明らかである。一部改訂された日本版DVDの字幕でも、この解釈は変わらなかった。しかし、これは正反対の誤訳である。これは、一ヶ所の台詞の解釈の誤りから生じた重大なミスである。

誤訳の元となった宝石店の女主人の台詞
物語の中でアラトリステは、恋人のマリアから結婚したいと提案される。その場では断ったように見えるが、アラトリステはその後に首飾りを買いに行く。そのために、日本では迷った末にプロポーズを決意したと解釈された。

以下はアラトリステに首飾りを売った宝石店の女主人の台詞である。劇場版の日本語字幕において、この台詞は「その美しい貴婦人と将来を共に」するための贈り物と訳された。改訂されたDVDの字幕でも「将来を考えて」の贈り物とされ、アラトリステがプロポーズする決意をしたことの根拠とされた。

スペイン語 “A lo mejor, abuso de vuestra confianza. Pero... ¿estaría equivocada si pensara que con este obsequio vuestra merced está pensando en, digamos... un futuro con esa dama tan hermosa?”

英語字幕 “I would not abuse your trust... but would I be mistaken in assuming that with this gift Your Worship is thinking of, shall we say... a future with this lovely lady?”

この台詞について東京外国語大学教員の柳原孝敦は、条件法の文章であり日本語字幕はニュアンスを取り違えていると自身のブログ[http://criollisimo-cafecriollo.blogspot.com/2011/06/blog-post_10.html CRIOLLISIMO]で指摘した。条件法であれば、将来を考えての贈りもの「ではない」となる。すなわち、現在のマリアとの関係を維持するための贈り物である。アラトリステは、結婚を断り失望させたマリアに、せめて愛情を示すために、どん底の貧しい生活の中で高価な首飾りを買い求めたのである。本作のテーマが「男の誇り」であることは、劇場版パンフレットにも明記されている。アラトリステにとって、パトロン達と肉体関係を持つマリアとの結婚は、誇りを捨てる行為であり不可能である。

アラトリステとマリアの関係は、この後も終盤まで描かれ続ける。「プロポーズをしようとした」という誤った解釈のために、国王にマリアを奪われる経緯も、マリアとの最後の別れの台詞も、全てにおいて意味合いがぶれてしまった。「結婚しようとしたのに、国王に先を越された」と、「結婚を断ったために、マリアの運命を変えてしまった」では、同じ演技でも観客にとっては意味が変わる。

誤った字幕による映像の二次使用
ストーリーを変えてしまう程の誤りのある日本語字幕は、劇場版もDVDも共に欠陥商品と言わざるを得ない。しかし、配給元の㈱アート・ポートは誤訳の指摘を受けつつ2010年にDVDをケーブルTVの映画専門チャンネルであるシネフィル・イマジカに提供し、2012年からはWeb配信で映像を販売している。

by Gran-desastre | 2011-06-21 11:49
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